AMSER開発者林貴晴氏が教える|第12話:FX自動売買とプログラミング言語
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FXと自動売買の相性
外国為替取引(FX)と自動売買システムの組み合わせは、多くのトレーダーから注目されています。
FX市場は週5日24時間開いているため、取引機会が豊富です。
人間が常時市場を監視することは不可能ですが、自動売買システムは休むことなく、一貫した戦略でトレードを続けられます。これにより、感情的な判断や疲労による判断ミスを避けることができます。
また、自動売買システムは、複数の通貨ペアを同時に監視し、最適な取引機会を見つけることができます。
例えば、EUR/USDとUSD/JPYの相関関係を利用したトレード戦略なども可能です。
次に、FX市場は高い流動性を持っています。
自動売買プログラムは多くの人が同時に使用することがあり、そのような場合に注文が集中しても対応できる流動性が必要です。FX市場はこの点でも自動売買に適しています。
さらに、FXでは長期間の1分足データが無料で簡単に入手できます。
これにより、低コストでバックテストを行うことができます。
最後に、FXは通貨間の相対的な価値が一定の範囲内で変動する傾向があります。
株式市場のように長期的な成長が前提ではないため、過去の分析結果を現在の市場にも適用しやすいという特徴があります。
一方、デメリットが無いわけではありません。
自動売買システムは、通常、過去のデータや特定の市場条件に基づいてプログラムされています。
しかし、予期せぬニュースや経済イベントによって市場が急変した場合、プログラムが適切に対応できない可能性があります。
人間のトレーダーならば状況を素早く判断し戦略を変更できますが、自動システムにはそのような柔軟性が欠けています。
また、インターネットの不具合、停電、使用しているコンピューターやプラットホームの問題により、予期せぬ損失が発生する可能性があります。
これらのリスクを軽減するために、バーチャルプライベートサーバー(VPS)の使用など、さまざまな対策が考えられています。
自動売買とプログラミング言語の歴史
自動売買の歴史は1980年代後半に遡ります。
当時、大手金融機関は独自の専用トレーディングシステムを開発し、アルゴリズムトレードを実行していました。
これにより取引の効率化と利益の最大化が図られましたが、これらのシステムは高価で、個人トレーダーが利用することは困難でした。
1991年には株式向けのプラットホームTradeStationが公開されました。
このプラットホームは、自動売買言語としてシンプルな構文のEasyLanguageを使用し、豊富なライブラリと高速なバックテスト機能を搭載していました。
2000年代に入ると、多くの自動売買ツールが登場しました。
2003年にはC#ベースのNinjaTraderが、2005年にはC言語に近いMeta Trader 4が、そして2006年にはJAVAを複雑化したJFOREXが公開されました。
2010年にはMeta Trader 5が公開されました。
使用言語のMQL5はC++に近い概念を持っていましたが、MQL4と同じ名前の異なる関数が大量に使用され、混乱を招きました。
この問題は現在も続いており、MT4からMT5への移行を妨げる要因となっています。
また、MT4がポジションを1つずつ管理するヘッジングシステムを採用していたのに対し、MT5は当初、同じ銘柄のポジションを合成するネッティングシステムを採用しました。
そのため、MT4の豊富な自動売買ツールEA(Expert Adviser)をMT5に移植することが非常に困難でした。
ただし、MT5は2016年のアップデートで、証券会社がネッティングシステムとヘッジシステムを選択できるようになりました。
2011年には、C#ベースのcTraderが公開され、自動売買プラットホームの選択肢がさらに広がりました。
これらの発展により、自動売買システムは徐々に個人トレーダーにも利用可能となり、より高度で効率的なトレーディング戦略の実装が可能になりました。
プラットホーム | プログラム言語 | 説明 |
---|---|---|
TradeStation | EasyLanguage | 米国株向けに開発された多機能なチャートと分析ツールを提供 |
NinjaTrader | C# | 高度なチャート機能とバックテスト機能を持つ |
MetaTrader 4 (MT4) | MQL4 | MetaQuotes社によるFXおよびCFD取引専用の言語。シンプルで直感的 |
JForex | Java | Dukascopy社のプラットホーム。Javaを使用して戦略を構築 |
MetaTrader 5 (MT5) | MQL5 | MQL4の後継で、より高度な機能とオブジェクト指向プログラミング |
cTrader | C# | Spotware社のプラットホームで、.NETフレームワークを利用 |
自動売買の影響
自動売買システムの台頭が外国為替市場に与えた影響は多岐にわたります。
まず、これらのシステムは人間よりも高速かつ頻繁に取引を行うことが可能であり、その結果、市場の取引量が大幅に増加しました。
取引量の増加は市場の流動性向上につながり、売買スプレッドの縮小傾向をもたらしています。
これは、一般のトレーダーにとっても取引コストの低減という形でメリットとなっています。
高頻度取引の実現は、新たな取引戦略や市場参加者の出現を促しました。
従来の取引手法では捉えきれなかった微細な価格変動を利用する戦略や、複数の市場や商品間の相関関係を瞬時に分析して取引を行うアルゴリズムなどが登場しています。
これらの新しい要素により、市場の構造や動きに変化が生じ、伝統的な取引手法を用いるトレーダーにも大きな影響を与えています。
一方で、自動売買システムの普及には課題も存在します。
これらのシステムが同時に大量の注文を出すことで、短期的な価格変動(ボラティリティ)が増大する場合があります。
特に、予期せぬニュースや重要な経済指標の発表時など、急激な市場変動が起こる際に、この傾向が顕著に現れることがあります。
このような状況下では、価格が瞬間的に大きく変動し、市場の安定性を脅かす可能性があります。
自動売買の普及は、トレーダーの役割にも変化をもたらしています。
従来は取引の執行そのものに多くの時間と労力が費やされていましたが、現在では戦略の開発やリスク管理、システムの監視などにより重点が置かれるようになってきています。
トレーダーには、テクノロジーを理解し活用する能力と同時に、市場の本質的な動きを見極める洞察力が求められるようになりました。
このように、自動売買システムの影響は市場の効率性向上や新たな機会の創出といったポジティブな側面がある一方で、市場の不安定化やトレーダーの役割の変化といった課題も生み出しています。
今後も技術の進化とともに市場は変化を続けると予想され、参加者はこれらの変化に柔軟に対応していく必要があるでしょう。
自動売買の現状と将来
自動売買の環境は、PCのスペック向上や通信環境の整備により、ハード面では日々改善されています。
一方、ソフト面では、日本のFX自動売買において最も主流なプラットホームは、依然として2005年に公開されたMT4です。
全世界では、MT5とMT4のシェアが同程度ですが、最新のMT5も2010年の公開であり、すでに14年が経過しています。MT4がこれほど長期間使用されているのは、その完成度の高さを示していると言えるでしょう。
近年、クラウド化の流れが進んでいますが、自動売買の分野ではまだ実現には至っていません。
これは技術的な問題ではなく、法律的な制約によるものです。そのため、クラウド上にプログラムを置いて自動売買を行う時代は、近い将来には来ないと予想されます。
ビジュアルプログラミングの分野では、プログラミング言語を覚えずにブロックを並べて条件に合わせて取引を行うシステムの準備が整っています。
しかし、機能の限界がネックとなっています。
一方で、大学で文理を問わずPythonを習得する人が増えていること、そしてPythonのライブラリが豊富でコミュニティが大きいことから、APIを使用して証券会社のサーバーと接続し、JSONでデータをやり取りしてPythonで自動売買プログラムを使用する人が増えています。
特に仮想通貨の分野では、Pythonを使用した自動売買が非常に人気のある選択肢となっています。
プログラミング未経験者や初心者がFX自動売買のプログラミング言語を学ぶ場合、まずはMT4のMQL4から始めることをお勧めします。
MQL4はシンプルで、プログラミング言語の基礎を学ぶのに最適です。
一方、FX以外の自動売買にチャレンジする場合は、Pythonが適しています。
Pythonは豊富なライブラリと情報があるため、基礎を習得できれば様々な応用が容易にできます。
執筆者紹介

AMSER株式会社 代表取締役
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