AMSER開発者林貴晴氏が教える|第13話:取引数から読み取るEAの特徴
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MT4やMT5のバックテスト結果は、主に3つの部分で構成されています。
まず基本情報があり、これにはEAの名前、使用口座の詳細、検証の信頼性に関する情報が含まれます。
次に金額ベースの情報があり、ここには総損益、プロフィットファクター、最大ドローダウンなどが記載されています。
そして最後に取引数ベースの情報があります。今回は、この「取引数」に焦点を当てて解説します。
自動売買取引の最終的な目標は資産を増やすことです。なぜバックテスト結果で取引回数が重要視されるのでしょうか?
実は、取引回数を分析することで、EAの運用イメージをより具体的に掴むことができるのです。
EAはブラックボックスと言われますが、バックテスト結果には多くの重要な情報が隠れています。取引数に関する各項目から、どのような洞察が得られるのか、詳しく見ていきましょう。
総取引数
総取引数とは、バックテスト期間中に行われた取引の総回数を指します。
ここでは、ポジションを開いてから閉じるまでを1回の取引として数えます。
この数字は、EAの取引頻度を理解する上で重要な指標となります。
総取引数をバックテストの実施期間(年数)で割ることで、1年間に平均して何回の取引が行われるかを把握できます。
これにより、EAの年間の活動量を概観することができます。
さらに、この年間の取引回数を52で割ると、1週間あたりの平均取引回数が分かります。
これは、EAが週単位でどの程度活発に取引を行うかを示す指標となります。
同様に、年間取引回数を260(平均的な年間取引日数)で割ると、1日あたりの平均取引回数を算出できます。
これにより、EAが日々どの程度の頻度で取引を行うかをイメージすることができます。
総取引数は、バックテストの結果の信頼性を大きく左右する重要な要素です。
取引数が少ない場合、結果が偶然の影響を受けやすくなり、信頼性が低下します。
この考え方の背景には、統計学の基本原則である中心極限定理があります。
この定理によれば、サンプルサイズが大きくなるにつれて、サンプル平均の分布は正規分布に近づいていきます。
統計学的観点から、100取引未満のバックテストや実運用の結果は、信頼性が低いと評価されます。
一方、100取引以上あれば、そのEAのパフォーマンス評価が安定し、リスク管理を適切に評価できるようになります。
ただし、100という数字は最低限必要な取引数であり、実際にはより信頼性の高い結果を得るために200~300取引以上あることが望ましいとされています。
実際の運用においても、バックテストの成績に近い結果を得るためには、同様に100以上の取引が必要です。
例えば、年間平均取引数が100回のEAの場合、信頼できる評価を得るまでに1年かかります。また、年間200回取引するEAであれば、半年程度の時間が必要となります。
このように、EAの評価には一定の時間がかかることを念頭に置いておくことが重要です。
短期間の結果だけでEAの性能を判断するのではなく、十分な取引数に基づいた長期的な視点で評価することが、より信頼性の高い判断につながります。
取引環境や技術的なハードウェアのスペック、通信環境は時代とともに大きく変化しています。
例えば、以前はレバレッジが数百倍で、スプレッドが現在の何十倍もあり、インターネット接続はADSLが主流でした。
一方、現在ではレバレッジは25倍程度に抑えられ、通信は光回線が一般的になっています。
このような環境の違いを考慮すると、古い時代のデータと現在のデータを同じように評価することには無理があります。
確かに、バックテストの期間を延ばせば取引数は増えますが、古いデータは現在の市場環境との乖離が大きくなるため、信頼性が低下します。
したがって、理想的なバックテストは、できるだけ取引回数が多く、かつ試験期間が最近に近いものといえます。
これにより、現在の市場環境に即した、より信頼性の高い結果を得ることができます。
取引数が多いことには注意すべき点もあります。
取引回数が増えるということは、それだけ多くの手数料を支払うことになります。
特に、スプレッドなどの取引コストの影響を受けやすくなる可能性があります。
高頻度で取引を行うEAの場合、わずかなスプレッドの変動が累積的に大きな影響を及ぼす可能性があります。
そのため、バックテストの結果を評価する際には、単に利益率だけでなく、取引コストを含めた実質的な収益性を考慮することが重要です。
売り・買いポジション取引数
売り取引と買い取引の数は必ずしも同じである必要はありません。以前は対称的なロジックが良いとされていましたが、現在ではこの考え方に変化が見られます。
例えば、ドル円相場では1ドル77円から160円まで円安ドル高が進行しました。
このような相場環境では、ランダムに売り買いを行っても、買い取引が有利になる傾向があります。
したがって、状況に応じて買い取引数が多くなり、売り取引数が減少するロジックのほうが優れているといえます。
EAを選択する際は、バックテストの開始レートと終了レートを確認し、有利な取引回数が多いEAを選ぶことが重要です。
また、開始レートと終了レートがほぼ同じになるように期間を調整してテストを行うことで、そのEAが得意とする相場状況を把握することができます。
市場環境によってEAの特性も変わってきます。
例えば、レンジ相場の時期に開発されたEAは売り・買いが対称的なものが多く見られます。一方、円安ドル高の時期には買いポジションの取引数が多いEAが多く開発される傾向があります。
このように、売り・買いポジション取引数は、EAの特性や相場環境への適応性を示す重要な指標となります。
単純に売り買いの数が均等であることよりも、市場の動向に合わせて適切に取引できるEAを選択することが、長期的な運用成功につながると考えられます。
勝率
勝率は、全体の勝率と売り・買いの個別勝率として表示されますが、この数値だけで EAを評価するのは適切ではありません。
勝率90%といった高い数字は一見魅力的に見えますが、極端に高い勝率のEAは一度の取引で大きな損失を被る可能性があります。
開発者は勝率を意図的にデザインすることができます。
例えば、利益確定をしやすく条件を変更し、損切りをしにくく条件を変更することで勝率を上げることが可能です。
利益確定幅を狭く損切り幅を広く設定すれば、勝率は上がりますが、同時に「利小損大」の傾向も強くなります。
また、1つのポジションを分割してクローズする方法でも勝率を上げることができます。
利益が出ている時は2つに分けてクローズし、損失の時は1つのポジションのままクローズするといった具合です。
複数ポジションを扱うEAでは、このような方法で勝率を上げていることがありますが、開発者自身も気づいていないことが多くあります。
一般的に、勝率の高いEAは「小さく勝って大きく負ける」傾向があります。
メンタル面では勝つ回数が多いので安心感がありますが、複数ポジションで勝率が80%を超えるようなEAは、一度の取引で破綻する可能性があるので注意が必要です。
勝率はリスクとリターンの結果であり重要な指標の一つですが、それだけでEAの性能を判断するのは危険です。
他の指標と合わせて総合的に評価し、そのEAの特性や潜在的なリスクを理解することが重要です。
最大、平均勝・敗トレード
最大トレードは、バックテスト期間中に単一の取引で得られた最大の利益または損失を表します。これはEAがどの程度のリスクを取るかを評価する重要な指標です。一方、平均トレードは全取引の平均利益または損失を示します。これらの指標は、EAのリスク管理能力を評価する上で非常に重要です。
最大トレードが極端に大きい場合、そのEAが時折大きなリスクを取ることを意味し、潜在的な危険性を示唆します。反対に、最大トレードと平均トレードの比率が安定している場合、そのEAが一貫したリスク管理を行っていることを示します。
一般的に、損切りポイントを設定することで最大損失トレードは抑制され、ドローダウンが制御されます。しかし、最大利益トレードについては、利益確定ポイントを設定しないか、非常に高い値に設定されていることがあります。これは、成績が良く見えるためです。しかし、極端に大きな最大利益トレードは偶発的なものである可能性が高く、再現性が低いため注意が必要です。
これらの指標を用いて、EAの収益性を計算することができます。勝数と平均勝トレードの積、敗数と平均敗けトレードの積の合計が純益となります。
また、平均勝トレードと勝率の積、平均敗けトレードと敗率の積の合計が、1回あたりの平均利益(期待利得)となります。
これらの指標を総合的に分析することで、EAの性能、リスク管理能力、そして長期的な収益性をより深く理解することができます。
最大連勝、連敗(金額)
最大連勝、連敗(金額)は、連続して勝った取引または負けた取引の最大数を示しています。
この指標は、EAの一貫性や安定性を見る上で一定の参考になりますが、解釈には注意が必要です。
最大連勝数は勝率から予想することができますが、これは単一の事象を表しているため、大きな誤差が生じる可能性があります。
例えば、1000回の取引を行い、勝率が70%の場合、確率的には最大連勝が19回、最大連敗が6回程度になると予想されます。
一方、勝率が50%の場合は、10連勝、10連敗程度になると予想されます。
しかし、この最大連勝や連敗が発生する確率は、総取引数と同じ回数取引を行って1回程度であり、必ずしも典型的な結果を反映しているわけではありません。
そのため、この数字だけで EAの性能を判断するのは適切ではありません。
EAの取引数に関する数字を正しく解釈することで、EAの実際の運用イメージをより具体的に把握することができます。
これらの数字を総合的に見ることで、EAがどのような頻度で、どのようなリスクを取りながら取引を行うのか、その運用イメージを具体的に描くことができます。
数字の背後にある意味を理解し、自分の投資スタイルや許容できるリスクレベルと照らし合わせることで、より適切なEAの選択や運用が可能になります。
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AMSER株式会社 代表取締役
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