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AMSER開発者林貴晴氏が教える|第4話:香港ドルのドルペッグ制

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香港は単なる金融センターではなく、アジアの金融の中心地として、為替市場に大きな影響力を持っています。

この街で行われる為替取引は、全世界の取引量の7%を占めており、これは日本の5.4%を上回る数字です。

 

香港の経済戦略の核心には「ドルペッグ制」という独特の制度があります。

この制度は、USD/HKDペアの安定性と魅力を維持するための重要な要素です。

香港ドルを知る

香港ドルの起源

アヘン戦争の結果、1842年以降、香港は長い間イギリスの植民地でした。

当時の貿易ではスペイン銀貨やメキシコ銀貨など、さまざまな外国硬貨が使用されていましたが、これらの硬貨は流通が非効率であり、銀の純度も一定ではありませんでした。

この問題を解決するため、1863年に香港政府は統一された通貨として香港ドルの紙幣と硬貨の発行を開始しました。

これが香港ドルの始まりとされています。

 

香港ドルの紙幣発行銀行と現状

香港ドルの紙幣は、香港上海銀行、中国銀行、スタンダードチャータード銀行の3つの銀行が発行する権限を持っています。

各銀行が発行する紙幣のデザインは異なりますが、全ての紙幣は公式に認可されています。一方で、硬貨は香港政府が直接発行しており、市場の需要に応じて発行量が調整されています。これにより、香港ドルの過剰発行は防がれています。

香港ドルのドルペッグ制とその影響

香港ドルは、ドルペッグ制を採用しており、この制度によって香港ドルは米ドルとの為替レートを一定の範囲、1米ドル = 7.75香港ドルから7.85香港ドルの間に保持しています。

香港金融管理局が為替介入を行い、このレート範囲を維持しています。

 

 

香港が1983年にこの制度を採用した背景には、1980年代初頭の香港ドルの大幅な下落への対策があります。香港経済は外国貿易に大きく依存しており、通貨の安定性は極めて重要です。

ドルペッグ制は、香港の金融安定と外国からの投資を引きつける環境を支えています。

 

ドルペッグ制を導入した理由は、以下の三つです。

 

  • 為替レートの安定が香港の自由貿易と国際金融センターとしての地位を保つ。
  • インフレ率を低く抑え、物価の安定を図る。
  • 外国為替の蓄えが不要となり、経済資源を有効活用できる。

 

しかし、ドルペッグ制には批判もあります。

香港の経済が米国の金融政策に強く依存する形となり、米国の金利変動が香港の市場に直接影響を与えることがあります。

特に、米国で金利が上昇すると、香港の不動産市場や企業の借入コストに悪影響を及ぼすことがあります。

これは香港経済の自立性に関する疑問を強める要因となっています。

通貨危機時の香港ドルとドルペッグ制の維持

1997年にアジア通貨危機が勃発した際、香港ドルはペッグ制の下限である1米ドル = 7.75香港ドルに接近しましたが、香港当局が大規模な米ドル売り介入を行い、このペッグ制を守り抜きました。

同様に、2008年の世界金融危機の際にも投機的な売り攻勢に直面しましたが、ペッグは再び維持されました。

これらの事例から、香港ドルのペッグ制は、複数の金融危機に耐えうる強固なシステムであることが実証されています。

香港の未来と一国二制度

1997年の中国への返還後、香港は「一国二制度」の下で特定の移行期間を迎えました。

この制度により、2047年までの50年間、香港には高度な自治権が与えられ、資本主義システムの維持が保証されています。

しかし、近年は中国政府の介入が増え、自由や民主主義が後退しているとの懸念が表れています。

 

経済面では、香港は自由経済と国際金融センターとしての地位を維持しています。

引き続き、中国と世界の間の重要な橋渡し役として機能しているでしょう。

しかし、「一国二制度」の将来は不透明であり、国際社会の注目を集めています。

 

さらに、人民元の国際化が進むにつれて、香港ドルの役割が縮小する可能性があります。2020年頃から人民元の利用範囲が拡大しており、これが長期的に香港ドルの米ドルペッグ制撤廃へとつながるかもしれません。

FXトレードと香港ドルを用いた戦略

香港ドルはドルペッグ制により、基本的には1米ドル = 7.75香港ドルから7.85香港ドルという狭い範囲内での小さな値動きが特徴です。

これにより、大きな為替差益を狙うのは難しいですが、特定の戦略を利用することで効率的な取引が可能です。

グリッドトレード

グリッドトレードは、価格が一定の幅で動くと予想されるレンジ相場やトレンドに対応するため、一定の間隔で自動的にポジションを取る手法です。

USD/HKDのペアは固定されたレンジ内で動くため、両建てのグリッドトレードが有効です。

レンジの中間点7.8香港ドルを中心に、それより低ければ買い、高ければ売りのポジションを取る変則グリッドや、スワップポイントが得られる方向だけを利用する戦略が効率的です。

レンジトレード

USD/HKDの取引では、香港ドルがペッグ範囲の上限または下限に近づいた際に取引することが一般的です。

 

例えば、範囲内で上限7.85に近づいたら売り、下限7.75に近づいたら買いのポジションを取ります。

市場参加者は介入を懸念し価格が再びレンジ内に戻る可能性が高いため、この戦略で繰り返し小さな利益を得ることや、中長期での大きな利益を狙うことが可能です。

ロットコントロール手法

USD/HKDはドルペッグ制を採用しており、上下に定められた範囲内での変動が特徴です。このため、損失を限定的に抑えることが可能です。

一般的な通貨ペアで用いられる、無制限のロットを増加させるマーチンゲール法などのロットコントロール戦略は、破綻リスクが高まることがありますが、USD/HKDではリスクが予測可能であり、安心して取引を行うことができます。

 

以上の点から、USD/HKDの取引は、ペッグ制度による変動幅の予測可能性と、それに伴うリスクの限定性が魅力です。

価格の変動幅が限定的であるため、小さな利益を積み重ねる手法が有効です。このことから自動売買システムと非常に相性が良く、システマティックな取引を促進します。

 

そのため、小さな利幅の取引で確実な取引を目指すトレーダーや、効率的な自動売買システムを導入したい投資家にとって、この通貨ペアは非常に適した選択肢と言えます。

未来の金融市場においても、USD/HKDは安定した取引の場として、その価値を保ち続ける可能性が高いですが、長期的な戦略ではペッグ制終了のリスクも考慮することが推奨されます。

執筆者紹介

AMSER株式会社 代表取締役

林 貴晴

S&P500上場IQVIAやFTSE100上場のGSKなど、外資系製薬会社で活動後 投資系企業の株式会社ゴゴジャンで自動売買ソフトの開発能力とマーケティング手腕を評価され部長に抜擢、 その後複数社で役員を兼務
S&P500上場IQVIAやFTSE100上場のGSKなど、外資系製薬会社で活動後 投資系企業の株式会社ゴゴジャンで自動売買ソフトの開発能力とマーケティング手腕を評価され部長に抜擢、 その後複数社で役員を兼務

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