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AMSER開発者林貴晴氏が教える|第5話:大統領選挙とリセッション

公開日:

アメリカ大統領

アメリカ大統領は、世界最大の経済を持つアメリカ合衆国の元首であり、政府の最高責任者です。

大統領は、立法府である議会の承認を必要とする場合を除き、国の経済政策、外交政策、軍事行動を指揮します。

また、連邦の予算案の策定や、主要な経済指標である失業率、インフレ率、経済成長率などに影響を与える財政政策の決定する役割を担っています。

なお、金融政策は独立した機関である連邦準備制度理事会(FRB)が担当しています。

 

チェックポイント

連邦準備制度理事会(FRB)とは米国の中央銀行制度である連邦準備制度(FRS)の最高意思決定機関で、日本でいう日本銀行に相当します。

大統領選挙

アメリカ大統領は、4年ごとに行われる選挙によって選ばれます。

この選挙は間接選挙制度で行われ、各州の選挙人が投票を行い、最終的に選挙人団が大統領を決定します。

選挙人の数は、各州の人口に基づいて割り当てられており、州ごとの選挙結果に基づいて選挙人が投票します。多くの州では、勝者総取り方式が採用されており、その州で最も票を獲得した候補が、州の全選挙人票を獲得します。全体で538票のうち過半数である270票を獲得した候補が、次期アメリカ合衆国大統領として選出されます。

二大政党

アメリカの政治は、民主党と共和党という二大政党制が中心となっています。

民主党は、社会的平等と経済的公平を重視し、政府の積極的な介入によって社会問題を解決する立場を取っています。福祉政策や医療、教育への支援を強化し、国民の生活向上を目指す政策を推進しています。

一方、共和党は、規制の少ない自由市場経済を推進し、政府の介入を抑え、個人の自由と自己責任を重視する政策を支持しています。政府の役割を最小限にし、個人の経済的な自由を確保することを重視しています。

任期

アメリカ大統領の任期は4年です。最大で2期、合計8年間まで務めることができます。この2期制限は、1951年に制定された憲法修正第22条によって導入されました。

これは、フランクリン・D・ルーズベルトが4期にわたって大統領を務めた後、長期間の政権集中を防ぐために設けられたものです。

選挙と株価の動き

アメリカの大統領選挙は、株式市場に大きな影響を与えることで知られています。過去のデータを基に、大統領選挙の前年から2年後までの株価の平均成長率を見ると、一定のパターンが確認できます。

平均成長率
前年16.6%
大統領選挙3.8%
翌年15.5%
2年後3.3%

1981年~2023S&P500年間平均成長率

 

TradingViewより参照

 

選挙の前年には16.6%という高い成長率が見られます。これは、選挙前の政治的・経済的な安定感により、企業が積極的に投資を行い、株式市場が活況を呈するためです。

政策変更が予想される前に、多くの企業が将来の準備を進め、経済活動が加速します。

 

選挙の年には、成長率が3.8%と前年に比べて低くなります。

市場参加者は、政権交代後に新しい政策が経済にどのような影響を与えるかを見極めながら、慎重に投資判断を行うため、市場はやや抑制される傾向があります。

 

大統領選挙翌年には、株価が15.5%と再び大きく上昇します。

新政権の政策が明確になり、不確実性が解消されることで、投資家の信頼が回復するためです。

この選挙翌年の急回復は、選挙後の政策の影響を見極める重要な時期として、特に注目されます。

 

さらに、選挙の2年後には成長率が3.3%に落ち着き、選挙前後の市場の揺れが安定に向かっていることが伺えます。

 

大統領選挙は、株式市場に大きな波をもたらす一大イベントであり、特に選挙翌年の急成長は、投資の好機として注目すべきです。

歴史的にもこの傾向は繰り返し現れており、選挙年が市場動向に与える影響は、投資戦略を考える上での重要な指標となります。

2つのリセッション

テクニカルリセッション

一般的に、リセッションは「2四半期連続の実質GDPのマイナス成長」として判断されることが多くありますが、これは厳密には「テクニカルリセッション」と呼ばれるものです。

テクニカルリセッションは、迅速に景気後退を把握できる利点があるものの、リセッションの公式な定義には当てはまらない場合もあります。

なぜなら、実際のリセッションは、GDPだけでなく雇用、工業生産、消費支出といった他の経済指標も含めて判断されるためです。

そのため、テクニカルリセッションが発生しても、失業率や消費者信頼感指数など他の指標が悪化していないケースもあり、経済全体の状況を一面的に捉えるものではないと言えます。

NBERのリセッション

一方、リセッションの公式な判定は、民間の非営利研究機関である全米経済研究所(NBER: National Bureau of Economic Research)が行います。

NBERは、実質GDPだけでなく、雇用、工業生産、消費支出など複数の指標を基に総合的に判断します。

NBERは慎重にリセッションの発表を行うため、リセッションが発生したとされる時期よりも数カ月後にその発表が行われることが一般的です。

たとえば、2008年の世界金融危機の際、リセッションの開始は200712月とされましたが、NBERがその発表を行ったのは200812月でした。

また、リセッションの終了が20096月とされたのも、20109月に発表されています。

 

このように、NBERの定義によるリセッションは「経済全体に広がった経済活動の著しい減少」であり、数カ月以上続くものとして判断されます。

テクニカルリセッションが即座に景気の動向を把握する手段として浸透している一方で、NBERの発表はより幅広い指標に基づいて慎重に判断されることが特徴です。

過去のリセッション

リセッションは、経済成長が停滞し、失業率が上昇し、企業活動や消費が鈍化する、深刻な景気後退を指します。

リセッションの要因は多岐にわたりますが、歴史的に見て、経済政策、金融危機、戦争、そして外的ショックが主要な引き金となっています。

 

過去約40年間で、アメリカは特に大規模な5つのリセッションを経験しました。

これらのリセッションは、いずれも重要な歴史的出来事や政策変更に関連しており、それぞれ異なる経済的・社会的な影響を及ぼしました。

ここでは、その5回のリセッションについて振り返り、それぞれの発生要因と影響を考察します。

 

興味深いことに、これらのリセッション発生時の大統領はすべて共和党であり、また約10年の周期で起こっている点が注目されます。

リセッションは避けられない経済現象であり、政治体制の変動や政策の方向性によって、リセッションの原因や結果も大きく左右されます。

リセッション年期間大統領発生原因
1981年1981年7月~1982年11月ロナルド・レーガン(共和党)インフレ抑制のためFRBが高金利を維持した結果、企業の投資と消費が大幅に減少し、景気が停滞した。失業率は戦後最大を記録した。
1990年1990年7月~1991年3月ジョージ・H・W・ブッシュ(共和党)湾岸戦争とS&L危機。原油価格の上昇と貯蓄貸付機関の危機が金融市場を不安定化し、企業の投資縮小が続いた。
2001年2001年3月~11月ジョージ・W・ブッシュ(共和党)ドットコムバブル崩壊。株式市場の急落により企業が破綻し、9/11テロが経済に追い打ちをかけた。
2008年2007年12月~2009年6月ジョージ・W・ブッシュ(共和党)サブプライムローン危機と世界金融危機。リーマンショックを象徴とする金融機関の破綻や住宅バブルの崩壊で深刻な不況に陥った。
2020年2020年2月~2020年4月ドナルド・トランプ(共和党)新型コロナウイルスによるパンデミック。ロックダウンや移動制限で消費、投資、貿易が大幅に縮小したが、財政・金融政策で早期回復。

アメリカ大統領選挙は経済に密接に関連しています。

政権交代や新たな経済政策は市場に不安定要素を与え、株価の変動や景気後退の引き金となることがあります。

 

また、外的ショックや予期しない出来事が重なると、リセッションの発生が加速することもあります。

リセッションは経済の不可避なサイクルの一部ですが、過去の教訓を活かし、未来の経済動向を見据えた準備が重要です。

 

過去のデータや政策の傾向を理解することで、今後の投資やリスク管理の指針が見えてきます。

大統領選挙と経済動向の関係に注目しながら、次の時代に備えた戦略をより有利に構築していくことが重要です。

執筆者紹介

AMSER株式会社 代表取締役

林 貴晴

S&P500上場IQVIAやFTSE100上場のGSKなど、外資系製薬会社で活動後 投資系企業の株式会社ゴゴジャンで自動売買ソフトの開発能力とマーケティング手腕を評価され部長に抜擢、 その後複数社で役員を兼務
S&P500上場IQVIAやFTSE100上場のGSKなど、外資系製薬会社で活動後 投資系企業の株式会社ゴゴジャンで自動売買ソフトの開発能力とマーケティング手腕を評価され部長に抜擢、 その後複数社で役員を兼務

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